本研究の主目的は、(1)傷害粘膜治癒過程におけるPTHrPとPTH/PTHrP受容体を介した再生・分化誘導の遺伝子発現調節を明らかにすること。(2)PTHrPとPTH/PTHrP受容体のautocrine/paracrine機構についてその細胞内情報伝達経路を指標に解明すること。(3)PTHrPmRNAの転写調節に関わるpromoter部位の決定や発現ベクター導入による傷害粘膜治癒効果の判定にある。潰瘍治癒過程におけるPTHrPの発現は免疫組織化学、ISH、ノーザンブロットで観察しsense-、antisense-oligoPTHrPや発現ベクターの組織内導入は計画どおり実施できた。免疫染色でPTHrPの発現は再生上皮と肉芽組織内リンパ球に認められ、ISHでもPTHrPmRNAの発現同様の分布を示しPCNA陽性細胞近傍に局在していた。ノーザンブロットでは予想に反して初期の1-2週目ではむしろPTHrPmRNAの発現は低下していたが、これはPTHrPの局在が本来固有筋層に多く発現しているため潰瘍化による筋層欠損を単に反映しているとも解釈できる。ISHでmRNAの発現が再生粘膜に観察されていることから、この点に関しては今後定量的には粘膜層のみのサンプリングが必要。正常粘膜ではPTHrPは増殖帯近傍に発現しているが、BrDU取り込み細胞(S期)には発現が見られなかった。一方、PTHrP受容体は胃粘膜では増殖帯近傍の粘膜細胞に発現し最表層の分化した細胞では発現は消失している。これらのことからPTHrPとPTHrP受容体は胃粘膜の増殖と分化を制御していると思われる。sense-とantisensePTHrPをそれぞれの発現ベクターとともに経口投与し潰瘍治癒過程を観察したが、sense-PTHrPは明らかに治癒を遷延させた。これらの結果からPTHrPは増殖よりも初期の分化誘導に重要な役割を果たしていると思われた。
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