本研究では、潰瘍再生の分子機構をPTHrPの発現と転写調節の観点から検討してきた。潰瘍治癒過程におけるPTHrPの発現は免疫組織化学、ISH、ノーザンブロットで観察しsense-、antisense-oligo PTHrPや発現ベクターの組織内導入は計画どおり実施できた。免疫染色でPTHrPの発現は潰瘍辺縁の再生上皮と肉芽組織内リンパ球に認められ、ISHでもPTHrPmRNAの発現同様の分布を示しPCNA陽性細胞との共存傾向も認められた。ISHでPTHrPmRNAは再生粘膜に観察されたが、ノーザンブロットでは初期の1-2週目ではPTHrPmRNAの発現は低下していた。これはPTHrPが固有筋層に多く発現しているため潰瘍化による筋層欠損を単に反映してとも解釈された。PTHrPリセプターは胃粘膜では増殖帯近傍の粘膜細胞に発現し最表層の分化した細胞では消失し、かつ増殖細胞自体には発現しないことから、PTHrPリセプターは胃粘膜の分化を制御していると思われた。sense-oligo PTHrPは治癒を遷延させPTHrPの過剰発現がPTHrPリセプターのdown regulationを引き起こし再生化を遅延させていることが示唆された。以上の結果から、PTHrPの発現の意義は再生粘膜の増殖抑制のために発現していると結論づけた。 PTHrPの転写促進因子として知られているEGFやTGFβの発現とPTHrPは治癒初期には連動していないことも明らかになった。一方、Ets-1転写因子は再生粘膜に発現しており、antisense-ets-1によりPTHrPの発現が消失したことから、Ets-1が転写調節に関与していることが推察された。今後、Ets-1転写因子と潰瘍治癒機転について研究を推進したい。
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