前年度の研究でアレルギー反応時などに肥満細胞から放出されるトリプターゼはキニノーゲンからのキニン産生による血管透過性亢進を引き起こすが、この作用は同時に肥満細胞から放出されるキマーゼによって増強されることが示唆された。今年度は、トリプターゼの高分子キニノーゲンからの血管透過性亢進活性産生に対するヒト好中球エラスターゼの効果を調べ、エラスターゼにも増強作用があることが明らかになった。これはエラスターゼによって分断された高分子キニノーゲンのブラディキニン配列を含むペプチドからトリプターゼがより効率よくブラディキニンを遊離させることによることがわかった。さらにこの共同作用は酸化されたキニノーゲンやペプチドに対してはカリクレイン以上の活性を発揮した。この現象は炎症巣では好中球の放出する活性酸素などによって酸化が引き起こされるので炎症巣でのブラディキニン産生機構として働いている可能性が考えられる。また、興味あることに、エラスターゼ自身にも高分子キニノーゲンからの血管透過性亢進活性産生作用があることが判明した。基質特異性からエラスターゼはブラディキニン以外のキニンを産生していると推測され、現在同定中である。実際の炎症でトリプターゼによるブラディキニンの産生を介した血管透過性亢進が起こっているかを解明するために、肥満細胞の脱顆粒が誘導されるモルモットのI型アレルギーとIII型アレルギーモデルを使ってブラディキニンB_2-リセプター拮抗剤FR173657の影響を調べた。I型アレルギー反応は抗Dinitrophenol(DNP)抗血清の静注によって受身感作したモルモットにDNP皮肉注射によって惹起した。III型アレルギー反応は完全フロイントアジュバントで乳化したウシ血清アルブミン(BSA)の皮下注射で感作したモルモットにBSAの皮内注射で誘導した。I型とIII型アレルギー反応の肥満細胞脱顆粒によっておこる初期の血管透過性亢進はFR173657で各々34%、30%が抑制されたことからトリプターゼによるブラディキニン産生がアレルギー反応による血管透過性亢進に関与していることが示唆された。
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