種特異的補体制御膜因子が存在する自己細胞では補体反応が強力に抑制され、それらを持たない侵入異物にのみ補体は反応する。異種細胞にも自由に補体反応が起こるので、異種移植などでは補体による超急性拒否反応がおこる。そこで、ヒトの補体制御因子遺伝子をブタに導入したトランスジェニックブタの作成が試みられている。ヒトの補体制御膜因子をブタに発現させれば、このブタの皮膚や臓器をヒトに移植しても補体反応は起こらないと期待できるからである。ヒトへの異種移植用トランスジェニック動物の実用化に当たっては、動物実験による基礎研究の知見が必要である。我々はモルモットの補体制御膜因子Gp-DAFおよびGp-MCPおよびラットの制御因子rat-Crry(512抗原)をすでにクローニングしており、これらを用いて異種移植反応の制御を検討するとともに、rat-DAFおよびrat-MCPの遺伝子クローニングを行い遺伝子を新たに決定した。DAFおよびMCPには種々のスプライシングフォームが存在するので、もっとも制御活性の強いコンストラクトの選別を行う必要がある。モルモットのDAFにおいてはcDNAをPCDM8を発現ベクターとしてネオマイシン耐性プラスミドpSFFVneoと共にCHO細胞にコトランスフェクトしてトランスフェクタントを得た。6種類のアイソフォームを検討した結果、セリン・スレオニン(S/T)領域がもっとも長い(Abc form)GPIアンカー型あるいは膜貫通型のものがもっとも強い補体活性化阻止作用を示したので、それらのコンストラクトを用いてES細胞への導入を試みるのが最適であることが確認された。また、ラットのDAFはモルモットおよびヒトDAFと同様に、4個のSCRドメインとS/T領域よりなる膜糖蛋白であるが、モルモットと同様にS/T領域の多型性が認められた。また、モルモットとは異なった、マウスDAFと同様の形式で、膜貫通型とGPlアンカー型を発現することが確認された。
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