研究概要 |
我々は、quail(ウズラ)-chick(ニワトリ)間異種移植系を用いた実験系により、quail胎児脳が血液脳関門(以下、BBB)誘導能を有することを明らかにした。その後、quail胎児脳の解析を通じ、血管透過性制御因子であるvascular endothelial growth factor(VEGF)のisoform(VEGF122,146,166,190)がBBB誘導時期に一致して変化することを見出した。即ち、それまでVEGF122,VEGF166であったisoformにBBB誘導時期にはVEGF146,VEGF190の発現亢進が加わった。VEGFは正常個体発生における脳血管新生過程のkey regulatorであるが、我々の解析結果は、VEGFが脳血管の分化過程、即ちBBB形成過程にも関与している可能性を示唆する知見と考えられる。さらに我々は、このVEGF isoformの変化が脳組織特異的な現象であるか否かについて検討を行う目的で、胎児肺および腎組織におけるVEGF isoformの発現を経時的に検索した。その結果、脳組織において発現するVEGF isoformに変化が見られるのに対し、肺および腎組織においては胎児期を通じてVEGF isoformの変化は観察されなかった。成体の肺組織、腎組織の血管はともにbarrier機構を有していないことから、脳組織におけるVEGF isoformの変化が、胎児血管のBBB形成血管への分化過程に関与する可能性をさらに強く示唆する知見と考えられる。続いて我々は、上記のVEGF isoform変化の機能的意義を明らかにする目的で、4種類のquail VEGF isoformのクローニングを試みた。Quail胎児脳組織(胎齢15日)よりtotal RNAを抽出し、RT-PCRにて翻訳開始および終止コドンを含むVEGF cDNA断片を増幅し、各isoformをpBluescript KS vectorに挿入した。そして、得られたcDNA断片の配列も確認した。現在までに、4種類すべてのisoformにつき、open reading frame全長を含むcDNAをクローニングした。さらに、VEGF isoform変化の機能的意義解明のために、BBB誘導時期以降に発現の見られるisoform(VEGF146,190)特異的配列をターゲットとしたantisense oligonucleotideを投与し、quail胎児脳におけるVEGF isoform変化を阻害し得るかについても現在検討中である。
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