マウスに単純ヘルペスウイルス(HSV-1)を経口投与すると、HSV-1に対する体液性および細胞性の免疫が成立し、致死的感染に対して感染防御能を獲得する。経口ワクチン作成のための有効エピトープ同定の目的で、経口投与されたマウスと腹腔に致死量以下で感染させたマウス血中抗体をSDSおよびwestern blotで調べた。経口投与後に出現する抗体の認識部位は130Kと64Kサイズのbandsであり、このbandsを切り出しマウスを免役し血中の抗体の出現を確認後HSV-1を致死的に感染させた。未処置マウスは全例死亡したが、130Kのbandと64Kのbandで免役したマウスは約50%と40%のマウスが生存した。64Kのbandはハイブリドーマと感染細胞のmRNAのニトロセルロース膜上での反応でglycoprotein D(gD)であることが判明した(130Kのbandはglycoprotein Bの可能性がある)。 今年度はgDおよびgBを発現するワクシニアの作製をテネシー大学免疫学教室Rouse教授に依頼して作製した。遺伝子組み換えによるgDおよびglycoprotein B(gB)発現ワクシニアウイルスワクシニアの経口投与および対象としてtail scratchによるimmunization後、gBおよびDに対する抗体の出現を確認してHSV-1を致死的に感染させた。その結果、gBは20%、gDは30%、さらにgBとDの組み合せでは40%とtail scratch(gBで30%、gD30%、gBとDで50%)と比較してほぼ同等な感染防御率が見られた。gDの中ではHSVTagなどのいくつかの有効なエピトープがあり、経口投与での抗原のエピトープとなる可能性がある。しかしながら、生のヘルペスウイルスの経口投与では致死的感染で100%の防御率を示すことから、抗体系でない細胞性免疫の関与があることが示唆された。今後は細胞性の免疫を中心に免疫原を検索したいと考える。 本研究の一部(中外製薬との協同研究)は今年度、HSV経口ワクチン及びその製造方法に関する発明で特許を得た(平成11年11月26日)。
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