scidマウスはリンパ球幹細胞に異常があるために、そのリンパ臓器にはT細胞とB細胞は存在しない。このマウスの胸腺にリンパ球は存在しないが、正常な組織構築を備えている。scidマウスに異種であるヌードラットの骨髄細胞を移植しておく(ラットBMTscidマウス)と、ドナー由来のリンパ球が胸腺内に移住し、正常ラットと同様にCD3、CD4、CD8やT細胞レセプター等の表面抗原を発現するようになる。やがて末梢にもラット由来のT細胞が出現する。同時にラットBMTscidマウスにおいてはラットのIgsを産生するB細胞も出現してくる。一方、scidマウスにラット胎齢15日の胸腺を移植しておくと胸腺は生着する。ところがこのマウスにおいては移植胸腺内に存在していたT細胞前駆細胞が移植胸腺内で成熟し、機能的なT細胞として末梢に出現し、胸腺移植後数ヶ月以内に激しいGVHDが発症し、動物は死亡する。ラットBMTscidマウスにおいてはこのようなGVHDや、局在性の自己免疫病も発症せず、長期の生存が可能である。ラットBMTscidマウスに外来抗原(SRBC)を与え、免疫反応を検討したが、その反応は極めて弱かった。ラットBMTscidマウスの末梢に存在するT細胞とB細胞がそれぞれ発現しているT細胞レセプターやIgGは正常ラット並であることから特異な現象である。ラットBMTscidマウスの脾リンパ球をヌードラットに注射し経過を観察したところ、処置後3か月から5か月で著しい体重の減少が見られるようになりGVHD様の病変が発症した。 以上からラットBMTscidマウスは種を越えた体内で免疫系が生存できることが明らかとなったことや、胸腺のT細胞に対す教育効果の解析に有用なモデルである。
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