本研究は、細胞内寄生病原体であるリーシュマニア原虫の細胞内侵入機序を進化分子工学的手法を用いて遺伝子レベルで解明しようとするものである。リーシュマニア原虫(Leishmania amazonensis;GO4)のゲノムDNA及びcDNAライブラリーを作成し、プラスミド(pBluescript IISK+)に組み込み、そのプラスミドを非病原性大腸菌(DH5α)に入れた。本来この大腸菌は、細胞侵入能力をもたないが、培養細胞(VA-13)と大腸菌を混合して培養した後、抗生物質を含んだ液で洗浄し、細胞外の大腸菌を洗い流し、細胞内に侵入した大腸菌だけを細胞を壊すことにより、侵入力をもった特定のリーシュマニア遺伝子が組み込まれたプラスミドを有する大腸菌を選択することに成功した。ゲノムDNAライブラリーを用いて行った実験で、細胞に侵入した大腸菌に含まれるプラスミドのインサートを解析したところ、11クローンの中で4クローンに、同一の614bpのシークエンスが含まれていた。更にデリーション変異株を作成し、この遺伝子のなかでどの部位が最も侵入力に関与しているかを調べたところ、N端側の130bpほどが、重要と考えられた。そこで、このインサートのデリーション変異株の、約130bp遺伝子を蛋白質発現ベクターに組み直し、大腸菌に導入しグルタチオン・S・Tランスフェラーゼ融合蛋白を作らせ精製した。この蛋白をアガロースビーズにコートし、細胞への付着試験を試みたところ、対照群と比較し有意にビーズの付着現象が高くなった。この約130bpの遺伝子をコンピュータのよるホモロジー解析を試みたところ、その相同性よりリーシュマニア原虫のキネトプラストDNAの遺伝子配列と考えられた。
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