これまでの研究で、住血吸虫は実験室の終宿主であるマウスの遺伝子を取り込むことが明らかになった。in situ PCR法により、マウスの高度反復配列・B2は日本住血吸虫の間充織細胞核と生殖腺細胞核に検出された。マンソン住血吸虫では長期感染(24週)の場合にのみ同様な部位に検出された。また卵内のマンソン住血吸虫の幼虫ではきわめてはっきりとB2の存在が示された。マウス内在性レトロウイルスの外被の(env)配列はマンソン住血吸虫雄成虫の間充織細胞核と外被外層小隆起部に、雌成虫では間充織細胞核と卵黄腺に見られた。外被外層小隆起部には細胞核はなく、envの配列は細胞質にエピゾーム様に存在しているものと思われた。日本住血吸虫では、この配列は間充織細胞核に認められた。日本住血吸虫雌の体内にある卵内の幼虫にはB2配列と同様にこの配列の存在が明確であった。またenv領域の中央付近から3'側のみが住血吸虫内に存在していることが明らかとなった。更にenvの中央付近の配列はマンソン住血吸虫には存在するが、日本住血吸虫にはその存在が認められなかった。このように住血吸虫は特定の宿主遺伝子領域を保持しているだけではなく、マンソン住血吸虫と日本住血吸虫とでは存在する宿主遺伝子の領域に違いがあった。住血吸虫には宿主であるマウスのミトコンドリアDNAの欠損配列の存在が示唆された。ミトコンドリアDNAは老化、酸化ストレスおよび放射線照射などにより欠損等が起こる。この寄生虫にマウスのミトコンドリアが取り込まれた結果、そのDNAに欠失が起こったと考えられる。日本住血吸虫に見られた配列は15bpのリピートを介する欠損DNAの長さに相当していた。
|