1.Trypanosoma cruzi錘鞭毛期(trypomastigote)、無鞭毛期(amastigote)と、HeLa細胞を宿主細胞とするin vitro感染モデル系を用い、アポトーシスに伴う細胞核の凝縮、染色体DNAの断片化といった変化を観察した。コントロールであるHeLa細胞で、アポトーシスのシグナルを伝達するFas受容体のアゴニスト抗Fas抗体(CH-11)によりアポトーシスを誘導し、経時的に細胞死の過程を確認した。 2.1の実験系にT.cruziを感染させ、感染宿主細胞でアポトーシスの抑制がみられるかどうか調べたところ、顕著な抑制がみられた。抗Fas抗体添加6時間後、Hoechst dyeにより細胞核を染色すると、非感染細胞では59.5%がアポトーシスを引き起こしたが感染細胞では30.0%と約半分であった。また、アポトーシスにより細胞膜リン脂質ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミンの局在が内膜から外膜に移行することが知られている。そこで、ホスファチジルエタノールアミンに特異的に結合するペプチドによりその変化をフローサイトメーターを用いて測定した結果、感染細胞ではリン脂質の移行がみられなかった。以上より感染細胞では明らかにFasを介するアポトーシスの抑制が起きていると考えられる。 3.T.cruziのcDNAまたはgDNAを哺乳動物細胞で発現するベクターに連結したライブラリーを作製した。CMVエンハンサー、アクチンプロモーター、ハイグロマイシン耐性遺伝子をもつ発現ベクターを用い、Fas遺伝子でトランスフェクトしたHeLa細胞にエレクトロポレーションにより導入し、T.cruziの組み換え遺伝子を安定に発現させた。現在トランスフェクトした細胞でアポトーシスを誘導し、細胞死を抑制するクローンをスクリーニング中である。
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