Trypanosoma cruzi感染によりHeLa細胞のアポトーシスが抑制されることを見出したので、今年度は新たにHT1080細胞を用い、さらに解析を進めた。T.cruziを感染させたHeLa、HT1080細胞を3-4日培養し抗Fas抗体によりアポトーシスを誘導し、感染および非感染細胞における細胞死、核の分断化、細胞膜リン脂質のトランスロケーション、DNAフラグメンテーションについて経時的に調べた。T.cruzi感染HeLa細胞では抗Fas抗体添加3日後にも生存している細胞が認められた。またFas誘導6時間後に細胞の核を蛍光染色し観察したところ、非感染細胞では59.5%がアポトーシスを起こしているのに対し、感染細胞では30.0%と約半分であった。またアネキシンVにより細胞膜ホスファチジルセリン(PS)の局在をFACSにより測定した場合、HT1080細胞では経時的にPSが細胞外膜に表出してくるが、T.cruzi感染HT1080では明らかに抑制がみられた。さらに、Fas誘導24時間後に感染HT1080細胞ではDNAフラグメンテーションは認められず、非感染細胞との間に大きな差がみられた。またcaspase-3活性も感染細胞では抑制されており、この結果から、T.cruzi感染による宿主細胞のアポトーシス抑制はFasを介するシグナル伝達経路の比較的初期過程に起こると予想された。以上の結果から、T.cruzi感染では寄生虫自身が自己の生存・増殖のために何らかのシグナルを放出して、宿主細胞の細胞死を回避させる機構を持つ可能性が示唆された。現在その因子を探索中である。
|