本研究では、緑膿菌のサイトトキシン遺伝子を運ぶサイトトキシン変換ファージ、φCTXとその類縁ファージを研究対象として、ファージの全ゲノム解析を中心とした分子生物学的解析を行い、サイトトキシン変換ファージの分子進化とファージを介した毒素遺伝子の水平伝達の分子機構の解析を試みた。φCTXの全ゲノム配列の決定を行った結果、φCTXが大腸菌のP2ファージに非常によく似たゲノムを持つP2類縁ファージであることが明かとなった。その一方で、宿主との結合に関与する尾部ファイバーは大きく変化しており、それによって細菌属を越えたバクテリオファージの伝播が可能になったと考えられた。また、数カ所に外来性と推定される遺伝子が同定されたが、その存在部位にはφCTXとP2あるいはその類縁ファージとの間で共通性が認められ、ファージゲノム上に、病原遺伝子を含む種々の外来性遺伝子のホットスポットが存在することが示唆された。外来性遺伝子のホットスポットに関しては、PCR scanningと名付けた新しい解析手法を用いて3種類のφCTX類縁緑膿菌ファージのゲノム構造の解析を行った結果、このホットスポットの存在を確認できた。また、φCTXがRピオシン関連ファージと総称される緑膿菌のファージファミリーの一員であることから、Rピオシン関連ファージおよびRピオシンとP2ファージファミリーの遺伝的関連性が強く示唆されたため、Rピオシンの1つであるR2ピオシン遺伝子およびそれに近接して存在するF型ピオシンの1つであるF2ピオシン遺伝子の全配列を決定した。その結果、これまで欠陥ファージの一種と考えられていたRおよびF型ピオシンは、それぞれP2ファージとラムダファージの尾部遺伝子群のみが独自にバクテリオシンとして進化したものであることが明確になった。
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