神奈川現象(KP、我妻培地上でのβ溶血性)陽性を呈する腸炎ビブリオの耐熱性溶血毒(TDH)をコードする2つのtdh遺伝子(tdh1とtdh2)の発現の比較から、(プロモーターの強弱が特に重要ではないかと考えられたので、この点を調べた。最初にtdh2遺伝子のプロモーターをプライマー伸長法で同定した。次に、tdh2-lacZ融合遺伝子とtdh1-lacZ融合遺伝子を作成し、これらのプロモーター配列をsite-directed mutagenesis法を用いて変化させた場合の転写への影響を大腸菌のバックグラウンドで調べた。その結果、-34位のAと-24侍のGの存在により、tdh2とtdh1遺伝子のプロモーターの強さの違いがほぼ説明できることがわかった。これらの部分について、tdh1遺伝子プロモーター配列の塩基をtdh2の相当塩基に置換すると、転写レベルが非常に高くなり、これをKP陰性腸炎ビブリオ菌株内で発現させるとKP陽性株に変換した。 神奈川現象陰性株からクローン化したtdh3-tdh5遺伝子のプロモーター配列はtdh1遺伝子の場合よりさらにtdh2遺伝子に以ていた。これらの遺伝子の-34位のG→Aの1塩基置によって高レベルの転写が達成できるのではないかと考えられた。site-directed mutagenesis法によってそのような変異遺伝子を作成し、この仮説を証明できた。さらにtdh5遺伝子を保有するKP陰性腸炎ビブリオ菌株についてこのような1塩基置換を導入すると、KP陽性株に変換することを示した。 生体内でば、tdh高レベル発現の必要があれば、プロモーターの1塩基置換は比較的高率に起こる可能性が考えられるので、KP陰性ながらtdh遺伝子を保有する菌株は臨床的に重要であると考えられる。したがって、腸炎ビブリオの病原性を査定するために、tdh遺伝子の有無を検索することは重要であると言える。
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