研究概要 |
染色体上でlypAおよびtoxR両遺伝子が近傍にあるか否かを調べる目的で、パルスフィールド電気泳動法をもちい両遺伝子をプローブとしたサザンハイブリダイゼーションを行った.コレラ菌N86株の全DNAを制限酵素NotIで切断しところ、両遺伝子プローブに反応する共通のバンドが見出された。このことから両遺伝子は染色体近傍に存在する事が示唆された。 フィスフォリパーゼ遺伝子(lypA)の内部をクローン化したスーサイドベクターをコレラ菌に導入してlypAを破壊した挿入変異株を作成した.これらの挿入lypA破壊株ではコレラ毒素の産生量が著しく低下した.とくに569B株においては1/500以下に低下していた.これに伴ってtoxRの発現も低下していていることが確認できた. しかし,以上方法でのlypA破壊では,挿入されたスーサイドベクターからの転写が遺伝子発現に影響している可能性が否定できない.したがって,クローン化したlypA遺伝子の上流と下流の領域を含み,構造遺伝子を含まない変異遺伝子を作成し,これをコレラ菌に導入して,二回の組換によって、lypAを完全に除いたlypAノックアウトコレラ菌の作製に成功した.遺伝子が完全に欠失しているか否かはサザンハイブリダイゼイションおよびPCR法によって確認した.コレラ毒素産生量はAKI培地を用いて菌を培養し,逆受身ラテックス凝集反応により定量した.その結果,分離されたlypAノックアウトコレラ菌では、コレラ毒素の産生性が若干低下したものもあったが,通常の産生量の高い569B株のノックアウト株では十分な産生量の低下は見られなかった.プラスミド挿入によるlypA遺伝子破壊で著しい毒素産生の低下をみせたのに対して,ノックアウト株では低下が十分に見られなかったことは,挿入変異では挿入されたプラスミド内部のプロモーターからの転写の影響でコレラ毒素産生の低下がおこったものと考えられる.このことはlypA近傍に強力にtoxRを制御する遺伝子が存在していることを示唆している.
|