本研究の目的は病原性大腸菌が産生する細胞壊死因子(CNF)の作用機序を明らかにすることである。今までの報告からCNFは動物細胞内の低分子量G蛋白質Rasスーパーファミリーに属するRhoに作用することが示唆されていた。CNFの作用によってRhoは何らかの修飾を受け、電気泳動度が変化し見かけ上高分子側にシフトする。私共は大腸菌の中でRhoとCNF2を共発現させる実験系を確立し、大腸菌内でCNF2がRhoを修飾することを示している。そこでCNF2によって修飾されたRhoを大量に精製し、リシルエンドペプチダーゼによる加水分解産物を4重極質量分析器にかけ、また全ての加水分解された断片のアミノ酸配列を気相シークエンサーを用いて決定した。その結果、修飾されたRhoでは63番目のグルタミンがグルタミン酸に変化していることを見出した。即ち、Rhoはグルタミンが脱アミド化されることが明らかとなった。63番目のグルタミンはRhoをはじめとする低分子量G蛋白質でGTPase catalytic domainに位置し、GAP依存性のGTPase活性を規定する必須のアミノ酸であることが知られている。CNF2によって修飾されたRhoのGAP依存性、非依存性のGTPase活性を測ったところ、コントロールに比して著しく活性が低下していることが明らかとなった。一方、GTP結合活性、GDP遊離速度などは大きく影響は受けなかった。さらに脱アミド化された63番目グルタミンを含むオリゴペプチドを用いて作成したペプチド抗体でCNF2によって修飾されたRhoが認識され、コントロールは認識されなかった。以上のことからRhoはCNF2によって脱アミドかされ、63番目のグルタミンがグルタミン酸となり、Rhoが構成的に活性化されることを明らかにした。
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