黄色ブドウ球菌臨床分離株NMは、電顕観察からミクロカプセルと呼ばれる薄い莢膜を保有しており、菌表面の性質は予想に反し強い疎水性を示している。さらに、NM株は、ヒト白血球の表面によく付着し、また、培養細胞Vero細胞表面にも数多く付着しているのが見られ、この莢膜は細菌莢膜の一般的な病原因子としての意義、即ち白血球をはじめとする食細胞の食菌作用に抵抗性を示すという性質とは逆の定着因子としての意義を持っていることが示唆された。さらにヒト血中より分離された数十個の菌株について検討したところ、NM株と同様に表面は疎水性を示しVero細胞によく付着するのが見られ、この仮説を裏付ける結果を得た。 莢膜の疎水性に関与しているものは莢膜結合タンパクであることが確認できたため、この糖タンパクを分離精製し抗体を作製した。得られた抗体で種々の黄色ブドウ球菌について検討した結果、実験室株では反応する株は僅かであったのに対し、臨床分離株のうちヒト血中より分離された菌株とは高頻度に反応した。ヒトからの分離頻度の高い莢膜血清型5型と8型の標準株であるReynoldsとBecker株のいずれとも反応し、電顕観察からどちらの株においても細菌の最外層と反応しているのが認められたので、この抗体の認識しているタンパク部分は5型と8型莢膜に共通して存在しているものと思われた。これらの結果から、分離したNM株の糖タンパクは黄色ブドウ球菌莢膜保有臨床分離株に対してのワクチンとして有用と考えられ検討中である。
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