臨床分離の黄色ブドウ球菌は、血中分離株の90%が莢膜を保有しているとされているが、この菌の莢膜の機能については今だにはっきりとした報告がなされていない。黄色ブドウ球菌莢膜の血清型は11に型別されており、臨床分離株のほとんどは5型か8型に属している。我々は、血中分離の莢膜保有株について、莢膜の構造を検討した結果、臨床分離株の莢膜は厚さが薄く、多くは細胞壁タイコ酸を覆い隠すことの出来ない不完全な莢膜であることを確認した。さらに、表層の性質を調べると、完全な莢膜を保有している株でも、著しい疎水性を示していることが分かった。この菌体表層の疎水性は、トリプシン耐性でペプシン感受性のタンパクが関与しており、SDS-PAGEによる解析では、分子量200kD(CP-PA)と160kD(CP-PB)の2種のペプチドが細胞壁に存在していた。そこで細胞壁よりCP-PAの分離精製をPhenyl-Sepharoseカラムを用いて行い、家兎に免疫して抗体を作製した。免疫電顕法により抗体は、菌体の莢膜表面と強く反応しているのが観察され、さらに5型莢膜の標準株Reynoldsと8型標準株Beckerのどちらとも反応する抗体であることが判明した。これらの結果から、黄色ブドウ球菌の臨床分離株の莢膜には疎水性タンパクが結合し、菌体表面の性質を疎水性にしているものと思われた。このことより、黄色ブドウ球菌の莢膜の機能は、一般的にいわれている抗食菌作用ではなく、逆に宿主への定着因子となっている可能性が示唆され、さらに検討を行った。黄色ブドウ球菌の莢膜非保有株の定着因子を調べると、トリプシン感受性で、やはり200KD以上の高分子タンパクであった。またこのタンパクはやはり著しい疎水性を示し、Vero細胞や株化ヒト肺細胞によく付着する性質を示していた。これに対し莢膜保有株のVero細胞への付着は、親水性のWood株と比べ有意に高率であり、トリプシン処理では変化しないがペプシン処理で顕著に減少した。この結果から、黄色ブドウ球菌の莢膜保有株の定着因子は非保有株のものとは異なったタンパクであるものと思われた。
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