コレラ菌を含むビブリオ属の多くの菌は、自然界では培養不能型に比較的早く移行することが知られており、原因と思われる疑わしい食品や水からの菌の検出が困難なものになっている。我々は実験的に培養不能型コレラ菌を作成し、特定の条件下でこの培養不能のコレラ菌が集落を形成するように復帰しうることから、これらの培養不能型菌が新しい感染源としての可能性を秘めていることを指摘できた。実験的に栄養飢餓、低温条件下におかれたコレラ菌は、時間と共に増殖能を失って約一ヶ月で培地に集落を形成しなくなるが、培養不能型に移行するまでの期間は、使用する菌の増殖ステージ、初期菌濃度、静置温度、浮遊液の化学組成などの違いによってに著しい差があることが明らかになってきた。例えば、対数増殖期のコレラ菌は比較的早く培養不能型に移行するが、完全に静止期状態になっているコレラ菌はほとんど培養不能型にならず、長期間培養可能な状態を保っている。また、菌の濃度も培養不能型への移行期間に大きく影響を与える因子であることが分かってきた。これらのことは、自然に生息するコレラ菌の生理状態やその環境がヒトへの感染の際に大きく関与しているものと示唆される。また、菌株による違いもあり、培養不能型になりにくい株もみられた。同様の現象はコレラ菌ばかりでなく、他のビブリオ、例えば腸炎ビブリオなどにおいてもみれら、他の菌の結果と合わせると、コレラ菌の培養不能型はグラム陰性菌に共通にみられる生存形態の一種ではないかと推察される。
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