グラム陰性菌感染に伴って多彩な生体反応を誘導する内毒素リポ多糖(LPS)の活性中心はリピドAである。本研究では、ヒトマクロファージ系細胞株およびヒト末梢血単球細胞を使用し、リピドA類縁化合物によるサイトカイン(TNF-α及びIL-6)産生誘導効果を検討した。その結果、ヒト系細胞に活性を示す化合物として、完全なリピドA構造を有する化合物506(二糖体骨格に6個のアシル基を結合)以外に、単糖体骨格で3個のシアル基を有するGLA-60を始めとする化合物を見出した。一方、二糖体骨格で4個のアシル基を持つ化合物406は、マウス細胞系ではGLA-60を上回る強い活性を発現するにもかかわらず、ヒト系細胞には活性を示さず、単糖体化合物でもアシル基が2個や4個でマウス細胞に活性を示す化合物も、ヒト系細胞に対する活性は示さなかった。ヒト系細胞の活性化には、糖骨格と結合するアシル基の比(1:3)が重要な要素になることが示唆された。次に、ヒト系細胞へのLPSの活性化作用に対する抑制効果を検討した。この場合は、マウス細胞に対しては活性化活性を示す単糖体化合物や406をはじめ、マウス細胞に対する抑制効果を示す化合物も含む幅広い化合物が抑制活性を示した。これらの結果は、ヒトマクロファージ系細胞もマウス系細胞と同程度の範囲の構造を、LPSの刺激伝達経路上で認識するが、サイトカイン産生にまで至る正の刺激として認識するための構造要求性が強いことを示唆した。正の刺激伝達経路の解明と共に、負に作用する構造やその作用機構の解明も、エンドトキシンショックの防止に結びつく可能性が高い。また、細胞内情報伝達経路の検討で、ヒト系細胞ではMAPキナーゼファミリー中のp38のリン酸化の亢進が著明に見られており、この活性化を1つのポイントとして研究を進めて行く予定である。
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