近年、細菌感染症が再び大きな問題となっている。多くの抗生剤に耐性な病原細菌が数多く出現し、その治療が困難となっているからである。その中に院内感染の主要起因菌である緑膿菌がある。緑膿菌の多剤耐性は、外膜の高い透過障壁性と薬剤排出系の協同作用の結果である。外膜の障壁性は、緑膿菌のポーリン孔のサイズが小さいことに由来することを明らかにして来た。またポーリンタンパクの一つであるOprDは、プロテアーゼ活性も併せもつという事を発見した。このようにユニークなOprDの構造と機能に関して大きな興味が持たれた。そこで以下の研究を行い成果を得た。 (1) OprDとセリンプロテアーゼのアミノ酸配列の比較から、OprDプロテアーゼのHis156、Asp208及びSer296が触媒基と推定された。そこでこれらアミノ酸を変異させ、そのプロテアーゼ活性を調べた。その結果これら変異タンパクで活性が失われていることが明らかとなった。 (2) 次にこれ以外のアミノ酸に変異を導入し、そのプロテアーゼ活性を調べた。その結果このような変異ではプロテアーゼ活性に変化のないことが分かった。以上の結果はOprDポーリンはプロテアーゼ活性を併せ持つ多機能膜タンパクである事を証明する。 (3) X線結晶解析法によりOprDの立体構造を解明するため、タンパクの結晶化を行った。キャピラリー法でタンパクを結晶化できたが、さらに良質の結晶を調製するため、詳細な結晶化条件を検討する。 (4) OprDに対するモノクローナル抗体と交叉反応を示す外膜タンパクOprE3を精製し、再構成系を用いて調べた結果、OprE3はポーリンである事が分かった。 (5) OprE3遺伝子をクローニングし、その全塩基配列を決定した。その結果OprE3はOprDと高い相同性を有することが明らかとなった。
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