研究概要 |
S.mitisは、緑色レンサ球菌群に属する口腔内常在菌であるが、最近では医源性顆粒球減少疾患者らの血液中からもたびたび検出される菌種である。本菌の代謝物質(ECP)はウサギの皮膚に血液炎を誘発することが知られている。私どもはこの実験的血管炎の発症機構明らかにすることを目的として、ヒト培養内皮細胞及び単球を用い、内皮細胞の活性化機序に焦点をあてて研究を進めて来た。S.mitisのECPならびにこのECPをDEAEカラムクロマトにかけて得られた分画(DEAE-F)、精製S.mitis由来ヒト血小板凝集因子(Sm-hPAF)さらに死菌全菌体を用いてヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)ないしは単球を刺激し、刺激後の転写因子NF-κBの核移行・活性化の検出を蛍光抗体法とEMSA法によって検討した。また刺激後のIL-1,IL-6,TNF-α等のサイトカインのmRNAの発現レベルは定量的RT-PCR法で、また培養上清中の各サイトカイン濃度はELISA法にて測定した。結果は、何れの代謝物質も、また死菌全菌体も直接にはHUVECを活性化しなかったが、ECPは極微量でも強い内皮細胞障害性を示した。一方、単球に対して死菌全菌体はNF-κBの活性化をもたらし、ひきつづいてIL-1,IL-6,TNF-αの遺伝子発現が認められた。またSm-hPAFを含まないDEAE-F分画の一部は単球のNF-κBの直接的な活性化を介せずに上記のサイトカインの産生を誘導した。以上の結果からS.mitisによる実験的血管炎の成立過程においては、ECPによる血管内皮細胞の障害や単球からの炎症性サイトカインを介しての内皮細胞の活性化が関与していることが示唆された。現在、ECPと菌体構成物質に含まれる単球活性化因子を同定すべく、その検討を行っている。
|