研究概要 |
HIV(human immunodeficiency virus)は後天性免疫不全症候群(AIDS:acquired immunodeficiency syndrome)の原因ウイルスである。HIVのNef遺伝子はHIVの病原性に必須である。また、NefはHIVの効率的な増殖に必要であり、HIVの受容体であるCD4の細胞表面での発現を抑制する。しかし、その分子機構については不明な点が多い。まず我々はNef変異体を作成し、ウイルス増殖、病原性において重要な役割を果たす部位を同定した。さらに、我々はNefに結合しCD4の発現を増強する細胞側因子Nafl(Nef-associated factor 1)をクローニングした。Naf1はcoiled-coil構造を有するタンパクであり、その発現は、脾臓・末梢血リンパ球で高い。Naf1をヒト細胞に発現させると細胞内の特定の膜分画に局在する。さらに、Naf1を細胞に発現させると細胞表面におけるCD4の発現が増強され、その効果はNefにより抑制される。近年coiled-coil構造を有し細胞内タンパク輸送に関与する分子が多く単離されている。これら分子との構造・細胞内局在の相同性及びNaf1に細胞表面のCD4分子の発現を増強する活性があることから、我々はNaf1はCD4の細胞内輸送を制御することによりCD4の細胞表面での発現を増強する分子であり、NefはそのNaf1の機能を結合することにより抑制すると考えている。現在までに,NefはCD4のendocytosisを活性化することによりCD4のdownregulationを誘導することが示されてきた。われわれの結果は、その機構に加えてNefはCD4のupregulationを阻害することにより、CD4のdownregulationを実行するという新しい分子機構の存在を示唆するものである。
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