ウイルス糖蛋白質の膜融合活性を決定する因子の解析

1997 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 09670321
• 研究種目: 基盤研究(C)
• 研究機関: 川崎医科大学
• 研究代表者: 大内 正信 川崎医科大学, 医学部, 助教授 (80107185)
• 研究分担者: 川崎 一則 生命工学工業技術研, 細胞情報, 主任研究員 ; 松本 明 川崎医科大学, 医学部, 教授 (90027318)
• キーワード: インフルエンザウイルス / レセプター / 膜融合能 / 糖側鎖 / 結合力 / ノイラミニダーゼ / 赤血球凝集素 / HA

研究概要

インフルエンザウイルスの赤血球凝集素(HA)はウイルスが細胞のレセプターに吸着するために必須の蛋白質であるが、同時にまたウイルス被膜と細胞膜の融合を媒介し、ウイルスゲノムが細胞質内に侵入するためにも不可欠である。
平成8年度の科学研究費補助を受けた研究によって、H1/USSR株のHAの先端部に存在する4つの糖側鎖を順次除去するとHAのレセプター結合力が増加し、3つの糖鎖を除去したHAではいったんレセプターに結合するとノイラミニダーゼ(レセプター破壊酵素)によっても殆ど解離しないほど結合力が強くなることが明らかになったが、今年度の本研究においてはHAのレセプター結合力に反比例してHAの細胞膜融合活性が減少することが見い出された。3つの糖鎖を除去したHAのレセプター結合部を改変し、結合力を弱めると融合活性が劇的に回復したことから、融合活性の減少が糖鎖除去によるHA構造の2自次的な変化に基づくものではないことも証明された。即ちHAが膜融合活性を表すためにはレセプター結合力を抑制する必要があることが明らかとなった。
HA分子のC末端の構造も膜融合活性に重大な影響を及ぼす事が我々の研究によって明らかになっているが、今後、C末端の構造がHA分子の膜内における運動性や分布状態にどのように影響するかを抗HAモノクローナル抗体とVideo-FRAP(fluorescence recovery after photobleaching)を用いて解析を進める。

研究成果

• [文献書誌] Ohuchi, R.: "Oligosaccharides in the stem region maintain the influenza virus hemagglutinin in the metastable form required for fusion activity." Journal of Virology. 71・5. 3719-3725 (1997)
• [文献書誌] 大内正信: "インフルエンザウイルスHAの膜融合活性部位" 日本臨床. 55・10. 2648-2653 (1997)
• [文献書誌] Ohuchi, M.: "Regulation of receptor binding affinity of influenza virus hemagglutinin by its carbohydrate moiety." Journal of Virology. 71・11. 8377-8384 (1997)
• [文献書誌] Klenk, H.-D.: "Carbohydrate-mediated adhesion of viruses." Nova Acta Leopoldina. 75・301. 131-142 (1997)
• [文献書誌] Ohuchi, M.: "Mechanism of membrane fusion mediated with viral protein." Kawasaki Medical Journal. 23・3(in press). (1998)
• [文献書誌] Ohuchi, M.: "Elongation of the cytoplasmic tail interferes with the fusion activity of influenza virus hemagglutinin." Journal of Virology. (in press). (1998)