パラミクソウイルス科ムンプスウイルスは培養細胞に感染し巨細胞を形成し細胞機能を傷害する。この細胞融合には感染細胞表面に発現したF、HN両ウイルスタンパクが必要であることが明らかにされている。また、ムンプスウイルスには巨細胞形成を起こさないウイルス株(RW)が存在し、これはFの195番目のアミノ酸残基の種類が規定していることが解っている。一方、RW株をノイラミニダーゼ(NA)阻害剤存在下で増殖させたところ細胞融合能の著しく強いウイルスが分離された。このウイルスにはHNのアミノ酸残基181番(I-T)と262番(Q-K)の2ヵ所に変異が見い出された。本研究ではムンプスウイルスのF及びHNの相互作用を解明していくためにこの変異ウイルスの細胞融合能を規定すると考えられるHNタンパクをFと共発現させ細胞融合活性を調べた。PCRを応用してRW株HNcDNAに点変異を導入し181T、262K及び両方の変異を持つ組換えDNAを作製し、COS細胞に導入してタンパクの発現を行った。いずれの変異HNタンパクも発現されたが、181T及び181T262Kの赤血球吸着能は低下、262Kは活性を無くしていた。またNA活性は181Tでは検出されたが262Kおよび181T262Kでは無かった。これらの変異HNを細胞融合能の低いRW株Fタンパクと共発現させたところ262Kでは著しい巨細胞形成が見られたが181Tではほとんど認められなかった。181T262Kでは再び巨細胞形成が認められた。このことは変異RW株が細胞融合活性を示したのは2つの変異により回復したことを支持するものでありムンプスウイルスの細胞融合活性にFとHNタンパクが特異的相互作用が重要であることを示している。
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