リンパ球系または肝細胞系のヒト培養細胞を用いたHCV感染増殖系は既に確立されている。しかし、これらの系における接種材料は患者血清であるため、材料に量的な制限があること、感染増殖効率が低く長期間の感染維持が難しいこと、人為的な遺伝子変異の導入が不可能であること、などの問題点がある。これらの問題を解決するために感染性HCV cDNA(RNA)の開発をめざした。 これまでのところ、HTLV-I感染培養ヒトTリンパ球(MT-2C)に対してHCV titerの高い血清を接種し、感染12日目の細胞においてHCVゲノム全領域の塩基配列を解析する事によって、特定の分子種のみが選択的に増殖していることを見い出した。さらにlong PCRを利用たRT-PCRによってHCV感染MT-2C細胞から、MT-2C細胞で選択的に増殖していると考えられるHCVゲノムをほぼ全領域にわたって増幅することが可能になった。この技術をもとにlong PCRで得られた約3kb(主に構造領域)と約7kb(主に非構造領域)のPCR産物を一度にプラスミドへ導入して全長HCV cDNAクローンを作成した。その全長HCV cDNAクローンからin vitro転写系によりHCV-RNAを作製、これをMT-2C細胞にtransfectさせることが可能になった。今後さらに、HCV RNAをtransfectした細胞においてHCVが増殖していること、感染性のウイルス粒子が培養液中に産生されることを確認する予定である。また、安定な感染性クローンが獲得された場合、これを用いて感染、複製に関わる基礎的および臨床的応用研究を行う予定である。
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