本研究はC型肝炎ウイルス(HCV)による肝炎、肝がん発症のメカニズムを明らかにする目的でHCVタンパク質発現培養肝細胞の細胞性遺伝子の発現変化ならびにHCV遺伝子あるいは遺伝子産物と相互作用を行う細胞性因子を解析するものである。以下に本年度のその研究実績をまとめる。 1. 培養肝がん細胞HepG2を用いて一過性外来遺伝子発現細胞の選択的濃縮を行い、HCV全遺伝子発現、非発現によって変化する既知遺伝子の検索をおこなった。500クローン以上の細胞性遺伝子発現を比較したが有為な変化を示すものは認められなかった。 2. 上記濃縮細胞を抗Fas抗体あるいは腫瘍壊死因子(TNF)-αで処理してアポトーシスを誘導した場合、HCV全遺伝子発現細胞はそれに抵抗性を示すことがわかった。またその効果は全遺伝子中コアタンパク質の発現に依存することを見い出した。 3. コアタンパク質は上記アポトーシス誘導物質による細胞性転写因子NF-κBを相乗的に活性化することで抗アポトーシス作用を示す場合があることがわかった。また同時にNF-κB非依存的なコアタンパク質による抗アポトーシス作用も存在することも明らかとなった。 4. コアタンパク質恒常発現細胞の樹立を通してコアタンパク質はRas遺伝子産物と協調して細胞を形質転換することを示した。 5. コアタンパク質はMAPキナーゼの活性化を通して細胞増殖活性化をおこなう可能性を示す結果を得た。 以上のようなHCVタンパク質による細胞のアポトーシスならびに増殖制御はHCVの持続感染および肝発がんとの関連が考えられ、現在その詳細な分子機構について解析を進めている。
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