本年度の研究計画は下記の2点であった。 1.インフルエンザウイルスによるFas/Fasリガンド誘導機構の解明:研究代表者らは、インフルエンザウイルス感染によりアポトーシス受容体Fasが増加することを報告したが、アポトーシス誘発にはFasリガンドも必要であることを考えると、Fasリガンドも同時に増加していることが考えられた。そこで、ウイルス感染細胞表面のFasリガンドをフローサイトメーターにより検出したところ、Fas受容体とほぼ同じタイムコースでその発現が増加することが判明した。一方、研究代表者らは、ウイルス複製の中間段階で生成すると予想される2本鎖RNA刺激によってもFas受容体が増加することを見いだしているが、Fasリガンドは2本鎖RNA刺激により増加しなかったことから、Fasリガンドは受容体とは異なったメカニズムで増加するものと考えられた。 2.アポトーシスとウイルス病原性および複製との関係:様々なアポトーシスで、システインプロテアーゼであるcaspasesが活性化することが明らかになってきたが、インフルエンザウイルスによるアポトーシスもcaspases阻害ペプチドにより抑制され、また、実際にcaspase-3がウイルス感染細胞で活性化していることが判明した。しかしながら、caspase阻害ペプチドはウイルスの複製を抑制しなかったことから、caspaseの活性化はウイルス複製の下流にあることが予想された。一方、牛痘ウイルスcrmA遺伝子を導入すると、アポトーシスとウイルス複製の両者ともに抑制されることがわかったが、そのメカニズムは次の課題である。今後は、さらにFas受容体のシグナルを直接抑制した場合の影響や、caspase阻害ペプチドに対応する遺伝子断片をインフルエンザウイルス遺伝子のNS-1に組み込み、まず単独で発現した場合の影響を検討する予定である。
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