本年度の検討課題は次の通りであった。1.カスパーゼ阻害因子のインフルエンザウイルスによるアポトーシスへの影響。2.カスパーゼ阻害因子のウイルス複製への影響。3.ウイルスゲノムへのカスパーゼ阻害ペプチドの導入。[結果および考察]1.カスパーゼ阻害ペプチドz-VAD-fmk、z-IETD-fmk、ウイルス由来のカスパーゼ阻害因子crmA、FLIPは、いずれもインフルエンザウイルスによるアポトーシスを抑制した。しかしながら、Ac-DEVD-CHO、Ac-YVAD-CHOはそれぞれ効果が少ないか、効果が認められなかった。2.カスパーゼ阻害ペプチド存在下でもウイルスの蛋白合成、培養上清のウイルス力価に変化はなかった。これらの結果から、ある種のカスパーゼがインフルエンザウイルス感染に伴って活性化し、それらを抑制することによりアポトーシスが抑制されること、しかしながら、カスパーゼの活性化はウイルス複製の下流に位置するため、カスパーゼを抑制してもウイルスの増殖は阻害しないことが考えられた。3.カスパーゼの阻害ペプチドをNS1遺伝子に導入した。ペプチドとして、p35、crmA、PARP、IL1βに存在するカスパーゼ切断配列部位、およびそれらの変異配列を用いた。また、組み換えNS1発現細胞を視覚化するため、EGFP-ペプチド-NS1の融合遺伝子を構築した。各組み換えNS1遺伝子を細胞に導入後、インフルエンザウイルスを感染し、EGFPの蛍光をもつ細胞について観察したところ、p35、PARPの切断配列をもつNS1発現細胞でアポトーシスの抑制が認められた。また、カスパーゼが作用すると、EGFPとNS1との間で切断されるはずであり、現在ウエスタンブロットにより確認中である。今後は効果の認められた配列をNS1のC末端に組み込み、ウイルスに導入することを試みる予定である。
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