本研究によりこれまでに下記のことを明らかにしてきた。すなわち、インフルエンザウイルス感染により宿主細胞はアポトーシスにより死滅する。その際、宿主細胞にアポトーシスシグナル受容体Fasとそのリガンド(Fasリガンド)が増加する。アポトーシスに関わるシステインプロテアーゼであるカスパーゼが活性化する。また、Fasの発現増加、およびアポトーシスシグナル伝達に、RNAにより活性化されるプロテインキナーゼ(PKR)が重要な役割を果たしている。 以上の結果より、アポトーシスを抑制することにより、ウイルスの細胞障害を軽減できることが予想されたため、次にカスパーゼの阻害効果を検討した。その結果、カスパーゼ阻害ペプチドDEVD、あるいは、カスパーゼ阻害因子crmAやvFLIPによりアポトーシスが抑制されることが判明した。しかしながら、crmAはアポトーシスのみならずウイルスの複製も抑制することから、ある種のプロテアーゼの活性化とウイルス複製との間に何らかの関連性が存在することが示唆された。さらに、カスパーゼ阻害ペプチド配列を組み込んだウイルス蛋白質NSIを作成し、その効果を検討した。そのために、NSIと緑色蛍光タンパク質(GFP)を融合し、その融合部位にカスパーゼ阻害ペプチド配列を挿入し宿主細胞に導入した。その結果、カスパーゼ阻害ペプチド(DQMD、DEVD)を組み込んだNS1により、ウイルス感染によるアポトーシスが減弱することが判明した。一方、NS1-GFP融合タンパク質はPKRを抑制することから、NS1の機能を保持していることが示唆された。以上のことから、アポトーシスを抑制することにより、宿主細胞障害が減弱することが判明したが、NS1-GFP融合タンパク質をもつ組み換えウイルスの作成、およぴその生体に及ぼす影響については、今後動物実験を用いて明らかにしていく予定である。
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