研究概要 |
免疫系の異常は,リンパ球の増殖異常や分化異常であることが多い。しかし,免疫系細胞がその運命を決定(コミットメント)された後に,いかにしてその増殖・分化の状態を維持してゆくのかは全く不明であった。ポリコーム・グループ(PcG)遺伝子群は,遺伝子の発現レベルの維持機構として働いている一群の遺伝子である。しかし今まで,ホメオボックス遺伝子の発現制御以外には全く研究が行われていなかった。哺乳類PcG遺伝子群(特に世界で初めて発見したmel-18遺伝子)が,免疫系細胞の,i)抗原リセプター由来のシグナル伝達、ii)細胞増殖(細胞周期)、iii)V(D)J遺伝子再構成、iv)細胞死のシグナルに対する感受性、などの調節をすることにより,リンパ球の増殖・分化・細胞死に深く関わっていることを見い出した。この様な,高次の制御ネットワークの解明が複雑な免疫病の解明につながると考えられる。 現在までに、mel-18遺伝子が、(1)in vitroで、がん抑制遺伝子としての活性を持つこと、(2)c-myc遺伝子の発現を調節することにより、c-myc/cdc25カスケードを介してCyclin-CDK複合体の活性を制御し、細胞周期を調節していること、(3)さらにこのCDK活性調節を介して、RAG蛋白質(特にRAG2)の安定性を制御することでリンパ球の分化を制御していること(4)BCL-2ファミリーの発現調節を介して細胞死・細抱生存を制御していること、等を明らかにした。 このPcG蛋白質複合体が、細胞内でどのような蛋白質と相互作用しているのか?またほかにどのような標的遺伝子を制御しているのか?細胞外からのどのようなシグナル伝達系によってPcGは制御されているのか?などの大問題にこれからアプローチする予定である。
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