ヒト第14番染色体の長腕部(14q32.33)の1.3メガベース(Mb)にもおよぶ長大な領域を占めるヒトIgH鎖遺伝子群の全貌を明らかにすることを最終目標に領域の単離、解析を進め、VH全領域の物理地図および全塩基配列決定を完成した。 全領域中に総数123個のヒトVH遺伝子断片を同定した。これらの断片は、異なるファミリーに属するものが入り交じっており、進化的に頻繁なDNAの再構成が示唆された。また、ヒトVk領域に見られる大きな領域の重複は発見されなかったが、数kbから25kbの大きさの12種類のDNA重複単位が繰り返し現れることが判明した。こういったDNAは、領域の約67%を占めており、ダイナミックな進化を裏付けている。また、VH断片の転写の向きは、すべてJH断片と同じで、逆位は見いだされなかった。領域の下流に3個のVH以外の遺伝子を見いだした。KIAA0125はヒト骨髄芽球細胞より単離された単一のエクソンよりなる遺伝子で、発現はリンパ系の組織に限定されている。またその少し上流にdisintegrinとリボゾーム蛋白質S8のプロセスされた偽遺伝子が存在した。VH断片全体をオープンリーディングフレーム(ORF)を持つものとそれ以外に分類しところ、全体の2/3を超える79個が何らかの理由で機能を失った偽遺伝子であった。ORFを持つ44個のVH断片のうち39個は、抗体蛋白に対応するものであり、最も厳密な意味において機能的VH遺伝子断片と言えるものであった。 今回の解析で、ヒト抗体遺伝子VH領域の全貌が明らかになり、多重遺伝子族の進化の理論的モデルの検証が可能となるとともに、抗体遺伝子領域とさまざまな免疫系の疾患の遺伝的関連性はじめとする解析を進めるための基礎が整った。
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