研究概要 |
セレクチン・リガンドのエピトープは糖鎖構造であり、シアリルルイス抗原(sLe^x,sLe^a)として知られる。このsLe^x,sLe^a合成に関与する新規の糖転移酵素遺伝子のクローニングを試みた。神経系に発現している新規のα1,3Fuc-T遺伝子のクローニングに成功した。但し、これはシアル化されたルイス抗原を合成せず、中性糖鎖であるLe^xとLe^yのみの合成能があった。セレクチンのリガンドとはなりえないと思える。しかし、おもしろいことに、神経系と初期胚に発現しており、そこでの重要な機能が示唆されている。消化管組織には、1型ルイス抗原がよく発現している。癌化により有名な腫瘍マーカーCA19-9(sLe^a)が発現し、これはセレクチン・リガンドであり、転移能に関係していることが示唆されている。これを合成する新規のβ3Gal-T酵素遺伝子のクローニングに成功した。β3Gal-T5は消化管組織、すなわち大腸、小腸、胃、膵臓に主に発現しておりその他では発現していなかった。癌化によりCA19-9抗原を発現する組織に一致して発現していた。培養細胞株でCA19-9を発現しているのは、このB3Gal-T5によることが証明された。今後、この遺伝子をもちいてセレクチンリガンドであるsLe^a抗原の発現を制御することが可能となった。CA19-9の合成経路を考えると、Le酵素はその合成に必須であり、Se酵素はCA19-9合成と競合関係にあることが予想された。Le,Se遺伝子のヒトにおける変異体を検出し、その遺伝子型とCA19-9産生能を比較した。Le酵素欠損個体では、CA19-9値は、完全にOであり、その前駆体であるDU-PAN-2値が上昇した。Se酵素を欠損する個体では明らかにCA19-9値が高く、Se酵素はCA19-9合成に競合反応することが証明された。癌の診断をより正確に行う方法論を確立した。
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