研究概要 |
本研究は、原始的有顎脊椎動物である軟骨魚類サメのMHCクラスI遺伝子を詳細に研究し、MHCクラスI遺伝子の脊椎動物における分子進化とその多型性獲得機構を明らかにすることを目的とする。これまでに我々は、最も原始的な有顎脊椎動物である軟骨魚類から典型的なMHCクラスI遺伝子の単離に成功し、その多型性について詳細な報告を行なった(Immunity7,777-790,(1997))。これは、現在MHC遺伝子が単離されている最も原始的な脊椎動物グループからの完全なMHCペプチド結合ドメインについての解析を初めて可能にした。この軟骨魚類MHCクラスI分子を基に、脊椎動物における古典的MHCクラスI分子の保存性について詳細な解析を行なった。現在までに、哺乳類、鳥類、軟骨魚類の古典的MHCクラスI分子の詳細な多型性解析が報告されている。軟骨魚類MHCクラスI分子のペプチド結合領域は、哺乳類に類似した環境を保持していることが推測される。近年、抗原ペプチドを結合した古典的MHCクラスI分子とT細胞レセプターとの相互作用がX線解析により明らかにされてきた。T細胞レセプターと相互作用するMHCクラスI分子のアミノ酸のいくつかは、軟骨魚類MHCクラスI分子においても保持されており、その起源の古さを示している。T細胞レセプターとMHCクラスI分子の相互作用の基本的特質は、脊椎動物の進化上早期に確立していたことが明らかとなった。
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