本研究では、感覚生理学的、心理的ストレス状態において、知的作業負荷中の脳の活動状態がどのように変化するのかを、ヒト脳内局所の血液量及び酸素化度などの血液動態の変化を調べることにより求めようとした。また、交感神経系の緊張状態を反映する心臓血管系反応を同時に測定し、これが脳内局所の血液動態の変化の個体差と関連性を有するか否かを検討し、これらを個人の心理・性格特性の面から解釈しようとするものである。 本年度は、実験1では、脳の知的活動を賦活化させることが明らかな暗算作業を課した9名の被験者の前額部(前頭連合野)に装着した反射型近赤外分光装置を用いた無侵襲的連続測定により、脳内総ヘモグロビン(total-Hb)濃度、酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)濃度および脱酸素化ヘモグロビン(deoxy-Hb)濃度の初期値からの変化を求めた。この結果、暗算作業負荷によりtotal-Hb濃度とoxy-Hb濃度は増加し、deoxy-Hb濃度は減少した。これにより脳内の酸素化度が上昇することが明らかとなった。実験2では90dB(A)の間欠騒音を24名の被験者に曝露した状態で同様に、暗算作業負荷を行い、騒音の脳内血液動態に及ぼす影響を検討した。また、心臓血管系反応(連続血圧、総末梢抵抗、一回拍出量および心拍数など)を脳内血液動態の測定と同時に計測し、両者の関連性を検討した。その結果、oxy-Hb濃度増加量と血液増加量との間、およびdeoxy-Hb濃度減少量と血圧増加量との間には正の相関関係が認められた。また、これらの関係は、騒音負荷により増強した。これらより、暗算作業負荷中のoxy-Hb濃度およびdeoxy-Hb濃度の変化は、交感神経系の緊張度と関連することが明らかとなった。なお、心理・性格特性と脳内局所の血液動態の変化の個体差との関連性について、更に検討を行ってゆく。
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