研究概要 |
高齢者介護における介護作業者の運動器障害予防をめざし、適切な介護方法・条件を明らかにすることを課題として人間工学的な実験を実施した。実験Iでは,左回りのベッドから車椅子への移乗介助作業を,ベッドの高低(69.0cm,43.8cm),新旧の車椅子(新型車椅子は肘掛け可倒式かつ足置き収納式),患者用介護ベルト使用の有無の3要因を組み合わせた8条件で,女子学生10名(平均体重48.9kg)に実施させた。患者役として女子学生1名(体重46.0kg)を用いた。介護者毎に標準化した全身と身体各部位の主観的作業強度(RPE)に関して、左腕におけるベルト使用が不使用より有意に高値を示した。介護者と患者の合算体重を基準にその倍率で表した鉛直方向の床荷重ピーク値(PI値)に関して,両足合成荷重における高ベッド条件が低ベッド条件より有意に低値を示した。実験IIでは,左回りの車椅子からベッドへの移乗介助作業を,実験Iの3要因に患者の体重要因(軽39.6kg,重47.4kg)を加えた4要因の組み合わせによる16通りの条件設定で,女子学生12名(平均体重48.6kg)に実施させた。標準化RPEが有意に低値となった条件は,全身における新型車椅子と全ての身体各部位における軽い患者であった。荷重ピーク値(PI値)は,右足については新型車椅子が,左足については,高ベッド,新型車椅子,ベルト使用がそれぞれ有意に低値を示した。両足合成のピーク値については,低ベッドと重い患者がそれぞれ有意に低値を示した。また,低ベッドでかつ新型車椅子の条件は他のベッドと車椅子の組み合わせ条件より有意に低値であった。両実験結果から,ベッド-車椅子間の移乗介助作業において,設備用具条件の設定の工夫によって介護者の作業負担軽減の可能性が示唆された。しかし,そのための条件と患者の快適度・安全感向上のための条件は必ずしも一致しなかったので,今後は両者にとって妥当な条件を検討することが必要であると考えられた。
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