塵肺症や呼吸器悪性腫瘍の原因となるアスベスト繊維に替わって、人工鉱物繊維(MMMF)が多くの産業やその製品に多量使用されている。多くの研究は呼吸器に吸入されたMMMFは有害性であると指摘している。しかし、この有害作用機作はアスベストの場合と同様に不明な部分が多い。毒性評価実験のために我が国で開発調製された国際的標準MMMFをラット肺胞マクロファージ(AM)と培養してその毒性を評価した。培養AMに添加したMMMFはアスベストと同様に一酸化窒素合成酵素(iNOS)を誘導して一酸化窒素(NO)産生を増加させ、かつ活性酸素であるスーパーオキシドアニオン(O_2-)産生をも増加させた。この結果はNOとO_2-によるパーオキシナイトライト(ONOO-)の形成とその分解による極めて有害な遊離基、・OHの発生を強く示唆した。さらに、NOはO_2-のみならず、mM濃度で細胞内に存在する還元型グルタチオン(GSH)消費してニトロソグルタチオン(GS-NO)を容易に形成する。それに伴って酸化的ストレスが増強され、細胞・組織が障害される可能性がある。そこでAMをMMMFと培養して、GS-NO形成の有無を調べた。その結果、AMとMMMFやアスベストとの培養ではGS-NO形成は検出可能であったが、有意に増加しなかった。他方、大量のNOを生成させる細菌性エンドトキシン(LPS)の存在下ではGS-NO形成は明らかに有意な増加を示した。細胞内のGSH濃度は細胞外のそれに比べはるかに高いが、GS-NO濃度は逆に細胞内よりも細胞外液、すなわちMMMFと培養したAM層よりも、専らconditioned medium中に検出された。このことは細胞内GSHはニトロソ化されると酸化型グルタチオン(GSSG)と同様に細胞外に分布することを明らかにした。また、アスベストやMMMFによるAMのiNOS誘導とNO産生ではGSH減少・枯渇するほどにGS-NO形成は増加せず、それによる酸化的ストレスの増強や細胞・組織障害も容易に惹起されないことが示唆された。
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