研究概要 |
妊娠ラットへの2,3,7,8-TCDD投与で仔ラットに精子数減少などの生殖障害が発生することはよく知られている。そこで,Ah受容体を介して弱いながらもダイオキシン類と同じ生体影響を示す1,2,3,4,6,7-六塩化ナフタレン(1,2,3,4,6,7-HxCN)の妊娠ラットへの投与を行い,オス仔ラットの生殖器系への影響を評価した。実験では妊娠14-16日目に渡って母ラット(Kud : Wistar)に1,2,3,4,6,7-HxCN1μg/kgを連日経口投与し,雄の仔ラットを生後31日目,48日目,62日目,89日目に生殺した。その結果,生後31日目でのみ精細胞を有する精細管の割合が,生後48日目でのみ精巣のhomogenizationーresistantな精細胞数が、生後62日目でのみ精巣上体尾部の精子数がHxCN群で有意に増加していた。生後89日目ではいずれの指標においても対照群と差が無くなっていたことから,1,2,3,4,6,7-HxCN群で精子産生能が増していたのではなく,精子発生開始時期が早まったため,精子発生の進行が対照群よりも常に進んでいたものと考えられた。一方,FSHやLHの血清中濃度は対照群よりも早くピークに達していた。これは、これらのホルモンの分泌開始時期が早まっていたことを示しており,これが精子の発生開始時期の早期化の原因であることが推定された。さらに,仔ラット離乳直後の母ラット脂肪中の1,2,3,4,6,7-HxCN濃度は5.75±2.81ppbであったが,これよりも高い濃度の1,2,3,4,6,7-HxCNが一般人の脂肪中からも検出されており,本実験で認められたような内分泌かく乱に起因すると推定される精子発生開始時期の早期化が,ヒトでも現実に起きている可能性は否定できないのではないかと考えられた。
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