疲労行動変化の総合的把握のための基礎的知見を整理し、各種の現場に応用可能な評価手法を確立することを目的として、フィールド調査や現場実験を行った。(1)夜勤を伴うマレーシアの金属加工工場、(2)夏季に高温となる職場としてのタイの家具工場、(3)姿勢拘束の強い作業の例として建設機械(ブルドーザー)のオペレーター、 (4)高温で作業を行うことの多い発電所作業者、 (5)農業機械オペレーターを対象とした。作業者の連続作業中の行動変化を記録し、同時に、温熱環境の評価、疲労自覚感の測定、筋電図、心電図、上体傾斜角の連続測定を行った。こうした測定評価結果にもとづいて疲労行動、自覚症状、生理学的測定結果の類型化を試みた。また、その際に外部環境としての温熱環境ならびに社会・文化的要因の疲労行動への影響をも分析にあたって加味した。その結果、被験者によって疲労に伴う身体行動変化には(1)作業に直接関与する身体部位の行動変化を主とするもの、 (2)体幹の副次行動を主とするもの、 (3)作業に直接関与しない末梢部位の行動変化を主とするものの3パターンに分類できるものと思われた。その他にも注目された人間行動変化として、夜勤職場では眠気回避のための飲水・喫煙などが眠気の進行とともに頻回に見られた。また、暑熱の強い家具工場では頻回の小休止行動、飲水行動が見られた。また、夜勤職場では作業者がイスラム教徒であったことから作業中の祈りのための大休息が取られた。姿勢拘束、温度条件、社会・文化条件の差などの複合的な要因によってに、疲労性行動変化が表現されることが明らかとなった。
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