富山医科薬科大学病理学教室に保管されているヒトの肺組織標本から肺癌および非肺癌例を各10例抽出し、それらの組織中における磁性物質の測定を行った。これらの標本を凍結処理しないでメスバウァ(Messbauer Spectroscopy)で測定したところ反応はみられなかった。そこで超電導法(Superconducting quantum interference device;SQUID)によって測定したところ高値(磁化強度1.02E^<-05>〜4.29E^<-06>)を示す組織標本があり、それらについては肺のそれぞれの区域(上肺野のS-3区域および下肺野のS-10区域)においても同様に高値を示した。すなわちこれらの成績は肺野における磁性物質の特定区域の局在を示唆するものではなかった。これら磁化強度が高値であった標本には肺癌の症例も含れていたが、必ずしも工場労働者ではなかったので、職暦および居住暦などのふり返り調査との突合も必要となる。 次の段階として磁化強度が高値を示した肺組織標本の交流消磁試験を行った。磁性物質の特性はこの交流消磁試験による磁化強度の減弱プロセスに影響を与えるが、今回の実験では、同じように磁化強度が高値を示す症例であっても、S-3とS-10の肺区域の消磁プロセスの違う場合がみられた。このことが磁性物質そのものの違いを示すのかあるいは物質が同じでも存在様態の差異によるのか今後の検討で結論する。 本年度の研究により、ヒト肺組織標本の磁化強度をSQUIDで計測し、さらに交流消磁試験で物質特性の把握を行う方法を確立した。次年度は人工的磁場の強制暴露法を導入し磁性物質の特性を一層明らかにする.
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