本邦におけるHIV感染者のカミングアウトのリスクを、ケースビネット法を利用した質問紙調査で間接的に測定し差別・偏見解消のための基礎的データを収集するのが本研究の目的である。 血液製剤による感染と性行為による感染(男性のケースと女性のケース)のそれぞれについて感染経路別にカミングアウトした場合としない場合のケースビネット(6種類)を作成し、それぞれの場合における感染者のイメージと彼らの置かれるであろう状況や大学生の感染者への態度などを調査した。対象者は、大学生1128人(男子学生487人、女子学生641人)であった。その結果、感染経路に関係なく、カミングアウトした場合の方が、感染者に対する好意的なイメージは増強され、また、否定的なイメージは減弱した。しかし、感染者の置かれるであろう状況や大学生の感染者への態度などは、カミングアウトによる影響をほとんど受けなかった。感染経路別の比較では、血液製剤による感染の場合の方が、性行為による場合より感染に対して責任がなくより同情されるという結果であったが、その他の項目については概ね差異はなかった。女子学生の方が男子学生に比較して感染者に好意的に回答する傾向が認められた。 今年度は、外的基準が与えられていない質的データの類似性を基準にして数量化(数量化III類)し、項目間の回答の類似性やカミングアウトによる類似性への影響を検討した。その結果、感染経路に関係なくカミングアウトした感染者に対するイメージは好意的になるであろうこと、しかし感染者への態度や世間の反応はカミングアウトによる変化は少なく好転の可能性は薄いことがわかった。
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