研究概要 |
1.長崎の原爆被爆者集団3,090人を対象として、個人のプライバシー保護に注意しつつ、Human T-lymphotropic virus type-I(HTLV-I)感染と死亡率との関連について検討した。追跡期間は1985-87年から1995年であった(追跡率100%)。8.9年(中央値)の観察期間に448人の死亡が発生した。成人T細胞白血病/リンパ腫(ATL)による死亡はなかったが、発症が1名あり、HTLV-IキャリアにおけるATLの発症率は0.46人/1,000人・年(95%信頼区間[CI]0.01-2.6)と計算された。性、年齢および他の要因の影響を補正した場合、HTLV-I抗体陽性者の死亡率は、全死因(相対危険度[RR]1.42)および全がん(RR1.65)で有意に上昇していた。HTLV-I抗体陽性と非腫瘍性疾患死亡との関連はほぼ有意であった(RR1.40,p=0.06)。この集団では、HTLV-Iキャリアにおける肝がんおよび慢性肝疾患の死亡率が高くC/B型肝炎ウイルスによる交絡が否定できなかった。そこで、肝がんおよび慢性肝疾患による死亡を除いて検討したが、HTLV-Iキャリアの死亡率は1.33倍高く(p=0.06)、血中プロウイルス量と相関があるとされる、HTLV-I抗体価が上昇するにしたがって相対危険度は高くなった(p=0.03)。また、追跡2年以内の死亡85人を除いても、HTLV-I抗体陽性と死亡との関連は有意であり、(RR=1.36)、特に、抗体価の高い群でその傾向は顕著であった(RR=2.03,p for trend=0.03)。これらの結果は、HTLV-I感染がATL以外の死亡率に影響を与えることを示唆するものと考えられた。 2.個人情報の機密に注意しながら、1985年1月から1996年8月までに長崎県上五島病院を受診したか、あるいは同病院で検診を受診した男性11,552人(HTLV-I抗体陽性率14.5%)、女性12,266人(同18.8%)の生存・死亡状況を追跡した。1995年末までの死亡者は、男742人、女503人であった。長崎県がん登録との記録の照合により、この集団における1994年末までのATL発症者は45名であることが判明した。現在、この45名と性、出生年、受診時期をそろえて症例1名につき4名ずつの対照を選択しているところである。今年度は、保存血清および末梢血塗末標本中異常リンパ球数の分析、およびHTLV-I関連疾患などに関するインタビューを行う予定である。また、ATLの発症率についても検討する予定である。
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