研究概要 |
1. Human T-lymphotropic virus type I(HTLV-I)流行地域における成人T-細胞白血病/リンパ腫(ATL)の罹患率および、その全非ホジキンリンパ腫(NHL)の罹患率に及ぼす影響の大きさについて検討した。第1の対象地域は、長崎県上五島4町で、1990年の総人口は、男性12,820人、女性14,050人であった。インフォームドコンセントを得た後、1985-1996年の間に、この地域の男性8,771人、女性9,714人について血清中抗HTLV-I抗体をゼラチン凝集法にて分析した。抗体陽性率は、男性14.8%、女性18.6%であった。観察人年は、総人口および性、5歳年齢階級別の項体陽性率を用いて計算した。長崎県がん登録の資料から、すべてのリンパ系腫瘍(73人)を抽出し、臨床所見、検査データを医療記録の閲覧または病院に質問紙を送付することによって確認した。1985-1994年の間に37人のATLおよび28人のNHLの発症が認められた。30歳以上のHTLV-IキャリアにおけるATLの粗罹患率(人/10万人年)は、男性138.0(95%信頼区間[CI]87.5-207.1)、女性52.7(95%CI28.8-88.4)と推定された。生涯発症率(30-79歳までの累積罹患率)は、男性6.5%、女性1.9%であった。この地域全体では、全NHLに占めるATLの割合は、57-58%であった。以上の調査から、70歳以上では、ATLとNHLの鑑別診断がなされていない場合があることが判明したが、長崎県がん登録のATLの診断の精度はよいと考えられた。第2の対象地域は長崎県全体であり、1990年の総人口は約156万であった。県全体では、1985年から1995年の間に、988人のATLおよび1,667人のその他のNHLが登録されていた。ATLの発症年齢の中央値は64-5歳であり、従来の報告により約5歳高かった。これは、今回の調査が、地域で発生したほとんどすべての症例を扱っているためであり、日本におけるATLの発症年齢は従来考えられていたよりも高いことが推測された。世界人口で調整した際の30歳以上におけるATLの罹患率は、男性10.5(95%CI9.6-11.3)、女性6.0(95%CI5.4-6.6)であった。全NHLに占めるATLの割合は、38-42%であった。このことは、HTLV-I感染をなくすことにより、長崎県における全NHLの38-42%が予防できることを示す。ATL罹患率の年次推移およびHTLV-I母児間感染防止事業の効果を評価するため、罹患率のモニタリングを継続中である。 2. 上記の上五島4町におけるATL37人中、発症前2年以上前の血清が保存されていたのは約20名であった。今年度は、1995-1996年の発症者を追加し、出生年、受診時期をそろえて対象者を1:5の割合で選択し、ATL発症危険因子についての症例対照研究を実施する予定である。
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