スチレンの量・影響関係を確立し、スチレン個人暴露量と色覚異常や末梢神経および皮膚障害との疫学的な関連性を検討することを目的として、平成9年度から3年間の調査研究を行った。平成9年度には、熊本県下でスチレンを使用する9つのFRP事業所の従業員を対象として、11月〜1月の冬期に調査を行い、平成10年度には特に季節による差も検討するため、上記に2つの事業所を加えて、7月〜9月の夏期に同様の内容の調査を実施した。その結果、 1)夏期のスチレン作業環境濃度は冬期と差が無く、また許容濃度より低値で作業者の個人暴露濃度平均値の半分以下であった。 2)スチレンの個人暴露濃度が許容濃度(50ppm)を越えた作業者はほとんどおらず、これには中小企業であるが故の自然換気と不景気が影響していると推察された。 3)マスク未使用者におけるスチレン個人暴露濃度と尿中マンデル酸排泄量の相関係数は、夏期も冬期も0.9前後と高かった。これらの回帰直線から求めた、FRP作業者のスチレン個人暴露濃度50ppmに相当する尿中マンデル酸排泄量は、0.60g/g・Crとこれまでの報告より若干低値を示した。 4)スチレン暴露者は性・年齢をマッチさせた対照者に比較して、冬期も夏期も色覚テスト(ランソニーパネルD-15)の得点が悪かったが、この得点と現在のスチレン個人暴露濃度との間には関連がなかった。 5)皮膚検診により40%弱の対象者に何らかの皮膚障害が観察された。 平成11年度には、これらに自覚症状データを加えてマスターファイルを作成した後に、相互関連性を検討している。一方で、皮膚障害の原因を追求するため溶剤等から化学物質を精製分離し、被験者の合意を得た上でパッチテストを行い、現在解析中である。さらに、いままでの調査結果を逐次各事業所に還元し、作業者ぐるみの健康教育に役立てている。
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