職業性の石綿曝露により肺癌や悪性胸膜中皮腫の死亡率が有意に上昇することは数多くの海外の研究により知られているが、労働環境が異なるわが国の実状を検討した疫学調査は極めて乏しい。また、低濃度曝露による死因への影響を検討した研究は、わが国では見あたらない。今回の研究は、こうした点の検討を目的としたものである。具体的には、低濃度の石綿曝露集団である某造船所の艤装作業従事者の死因構造を明らかにし、さらに全国の死亡率を基準にしたSMRによって過剰死亡の有無を観察するとともに、肺癌のリスクを上昇させることが知られている鉱山労働者の歴史的コ-ホ-トをポジティブコントロールとして、死因構造の比較を試みる。本年度は艤装作業者と鉱山労働者の両コ-ホ-トを確定することに中心に調査研究を進めた。若干の遅れはあるものの全体としてはほぼ計画通り進行している。 1.艤装作業者のコ-ホ-トの確定:某造船所に艤装工として半年以上の従事経験がある317名を追跡対象として設定した。このうち14名を除く全員の消息を確認した。死亡者は14名で、このうち遺族に対する聞き取り調査や関連医療機関への問い合わせから、悪性胸膜中皮腫で4名、肺癌で1名、胃癌で1名、食道癌で1名死亡していることが判明した。 2.鉱山労働者のコ-ホ-トの確定:某鉱山で亜砒酸の精錬作業等に従事した251名を追跡対象として設定した。このうち206名の消息を確認した。死亡者は85名であったが、遺族等に対する聞き取りから得た死因によれば、12名が肺癌で死亡しており、職種別には精錬作業の従事者44名中8名が肺癌で死亡していた。 3.今後の予定:現在、法務省に死亡診断書記載事項証明書の交付にかかる認容を申請中である。許可が得られた時点で、管轄法務局から死亡診断書を取り寄せ死因を確定するとともに、肺癌死亡例を中心に診療記録の調査を実施する予定である。
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