日本繊維状物質研究協議会(JFM)と労働省産業医学総合研究所が作製したJFM標準繊維状試料12種類の頒布を受け、これらをラット(F344雌、250匹)に腹腔内投与(5mg、10mg、20mg)し、観察を続けている。現在までにシリコンカーバイドウィスカ-(SC)、UICCクリソタイル(UC)、チタン酸カリウムウィスカ-(PT)を投与したラットに腹腔中皮腫の発生を見ている。実験開始後199日目にSC10mg群に発生して最初の腹腔中皮腫例を解剖し、その後340日目では、SC10mg投与群では12例中11例に、UC10mg群では13例中6例に、PT10mg群では13例中1例に腹膜中皮腫が発生している。いずれの腹腔中皮腫例も貧血と腹水の著しい貯留が観察され、衰弱した時点で解剖し、腹腔から30ml以上の血性腹水を回収する例が多い。投与した繊維状粉じんは、主として肝表面への沈着が認められる。ほとんどの中皮腫例では、腹壁から腹腔内各臓器に1mm前後の白色の腫瘤が播種しており、肝と横隔膜は癒着している。胸腔はじめ他の組織等への腫瘍の転移を認めた例はない。病理組織学的には、腫瘍組織は間質が少なく、円型あるいは紡錘形を呈し、分裂像を呈する細胞数は多くはないが、核はクロマチンに富み大小不同で異型性は中等度である。まれに、軟骨あるいは骨形成を伴いながら増殖する腫瘍も認められた。さらにラットの飼育と組織学的観察を継続している。
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