研究概要 |
労働安全衛生法により事業所で行われている職域健診の有効性を評価し、その改善策を検討するため、肝機能検査を例に取り、以下の実証的研究を行った。 某事業所の40才以上の従業員約3千人全員を対象とした。この事業所では肝機能検査のGOT,GPT,γ-GTPを含む法定の定期健康診断項目に加え、HB抗原およびHC抗体の検査、肝超音検査および詳細なアルコール摂取状況の調査を行っている。そこで法定健診の肝機能検査項目をスクリーニング検査とし、GOT,GPT,γ-GTPの基準値以上をスクリーニング陽性として、その鋭敏度と特異度を求めた。確定診断項目は、(1)過栄養(BMI26.4以上)、(2)アルコール多飲(アルコール係数21以上)、(3)B型肝炎ウイルス陽性(HBs抗原+)、(4)C型肝炎ウイルス陽性(HCV抗体+)、(5)脂肪肝(超音波検査所見の陽性)である。スクリーニング検査と確定診断の各項目毎の判定に基づき、スクリーニング評価のためのクロス表を作成した。その結果、過栄養性脂肪肝に関する敏感度はGOT<γ-GTP<GPTの順に高く、最も高いGPTで35.8であったが、他方、肥満(BMI)の同病態に関する敏感度は38.1と、むしろGPTより高かった。多飲酒に対する敏感度は肥満群と非肥満群で異なったが、最高は肥満群の33.3で、最も低い非肥満群ではGOTが7.1%であった。肝炎ウイルス感染症では、HBs抗原陽性に比べHCV抗体陽性に対する敏感度の方が高かったが、もっとも高かったGPTのHCVに対する敏感度は45.5であった。ROC曲線による解析でも同様の結果が、より鮮明に示された。 以上の結果より、職域定期検診で採用されている肝機能検査は、その検査で発見すべき病態のいずれの発見についても敏感度がかなり低く、その有用性は低いことが明らかになった。次年度は、他の検査項目についても同様の検討を加えるとともに、職域定期健診の改善策を考察する予定である。
|