本研究は無機砒素や砒素系半導体物質の暴露に対する生物学的影響モニタリングの確立で、免疫学的な手法を用いる、リンパ球幼若化応答と末梢血リンパ球分画の測定による評価法を検討した。 C57B/6nマウスの雄に、50日間、亜砒酸ナトリウムの0.1、1、10ppmを飲料水として自由に摂取させた。コントロールには蒸留水を同様に与えた。投与終了後、心採血を行い血清を得た。脾臓を無菌的に取り細胞浮遊液を調整し24時間invitroで培養を行った。血清中および培養上清中のGM-CSFはELISAにて測定した。さらに、腹部皮膚をHE染色し組織学的検索を行った。また、脾臓細胞および腹部皮膚よりmRANを抽出しサイトカインmRANの発現をRT-PCR法にて検討した。 今回GM-CSFがT細胞、内皮細胞、線維芽細胞から産生されることが知られていることから、マウスで観察している砒素の生体影響の指標をヒトに応用する事を考えて、採取する末梢血リンパ球に対応するであろうマウス脾細胞でのmRNA発現と、in vitroでの培養上清につき検討したわけである。その結果、血清中GM-CSFの高値と、脾細胞でのGM-CSFのmRAN発現が曝露群で観察され、砒素によって起こる皮膚角化の亢進といった皮膚所見を考えるとき、生体影響のひとつの指標となる可能性が示唆されたと言えよう。しかし、これらの変化が10ppmという相当な量の砒素に曝露して初めて観察されたことから、低濃度の砒素に曝露する作業者に適応するには更なる検討が必要であろうと思われる。また、TGFaについても今後検討を加えたい。
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