本研究は、集団的な慢性砒素中毒患者に関して、生物学的モニタリングとして暴露モニタリングと健康影響モニタリングを実施した。ついで、皮膚角化症に注目し飲料水を介しての慢性砒素曝露を施したマウスの砒素による生体影響としての皮膚の変化に特に注目し、砒素の生体影響指標を探る事を目的に実験を行った。 無機砒素曝露の健康影響モニタリングに関して検討した結果、従来より無機砒素曝露はヘム代謝に影響することが示唆されている。慢性砒素中毒患者の尿中ポルフィリンを化学形態別に測定し評価した結果、無機砒素曝露の影響モニタリングに尿中Copro-1が有効であることが明らかになった。しかし、今回の結果から、無機砒素のヘム代謝関連酵素への直接的な影響は比較的に軽度であることが推測された。 実験動物を用いた無機砒素曝露の健康影響モニタリングについて検討した結果、無機砒素(亜ヒ酸ナトリウム)がマウスに対して皮膚の角化症を引き起こす明確な結果は得られなかったが、一方、皮膚真皮層にコラーゲン線維束の太化が観察された。皮膚真皮層コラーゲン線維束の太化が起こった要因としては、コラーゲン線維の基となるプロコラーゲンを産生する線維芽細胞の増殖活性の冗進にともなう細胞数の増加、あるいは個々の線維芽細胞におけるプロコラーゲン産生量の増加が考えられる。今後、慢性砒素曝露を受けるヒトに観察される砒素角化症にもコラーゲン線維束の太化が関与するかについても検討する必要が考えられた。
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