研究概要 |
有酸素運動負荷にともなって生成される酸素ラジカルは、骨格筋などの生体の細胞障害の誘因となることがすでに報告されている。また、筆者らは長時間にわたる筋収縮負荷時には酸素ラジカルが生成されること、ならびに筋収縮負荷によって誘発された骨格筋細胞障害が、生体内抗酸化物質の一つであるubiquinone-10によって軽減されることをすでに報告した(T.Okamoto et al.:Biochem.Biophys.Res.Commun.,216,1006(1995))。本年度の研究は申請研究計画に基づいて、最大酸素摂取量(VO_<2max>)運動負荷時のヒト血清抗酸化剤の変動を検討し、酸素ラジカル消去系との関連性について検討した。 成人男性ボランティアを自転車エルゴメーターにて運動負荷させると、血清乳酸値は経時的に上昇した。これに対して血清ubiquinol-10(還元型ubiquinone-10)値は、VO_<2max>時には負荷前値に比べて有意に減少したが、負荷終了後、その値はすみやかに負荷前値にまで回復した。一方、血清総ubiquinone-10(還元型+酸化型)値には運動負荷中の有意な変動は認められなかった。この結果は、VO_<2max>運動負荷時には生体で酸素ラジカルが生成され、そのラジカル消去系にubiquinol-10がなんらかの役割を果たしている可能性を示唆した。また、その他の抗酸化剤では,血清vitaminC値が運動負荷とともに上昇したが、vitaminE値には変化は認められなかった。さらに運動負荷時の血清ubiquinol-10値はcholesterol値やtriglyceride値などの脂質値と正の相関を示した。 以上の結果から、VO_<2max>運動負荷時には、生体のubiquinol-10やvitamin Cが酸素ラジカルの消去に重要な役割を担っていることを認めた。 さらに、本研究ではこのubiquinol-10の生体内生成機構についても検討したところ、新規の酵素である細胞質NADPH‐ubiquinol reductaseがその役割を担っていることを認めた。
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