冷水浸漬試験による皮膚温測定法は末梢循環障害の評価のために、その簡便性の点から、これまで広く産業保健の現場で用いられ、振動障害の診断、治療評価および予防活動に活用されてきた。しかし、この測定法による評価の妥当性をめぐって現在、国際標準化機構(ISO)の中の専門者会議で標準化に向けた作業が進行中であり、その議論の資料として、4ケ年にわたる本研究は有用な基礎的資料を提供することができた。末梢循環機能や末梢知覚機能に及ぼす室温の影響について、厳密にコントロールされた人工気候室を用いて検討し、室温と末梢循環機能や末梢知覚機能の回復過程に正相関があることを明らかにした。同一室温では、今回採用した3種類の冷水浸漬試験のうち、5℃-1分法(5℃の冷水中に1分間手指を浸漬)がもっとも終了後の皮膚温回復過程が早く、15℃-15分法がもっとも遅れることを確認し、負荷強度として15℃-15分法が強いことを明らかにした。細かな室温設定(20℃、22℃、24℃)の影響を検討し、室温が24℃の時が、他の室温条件に比べて皮膚温回復の個人差が著明となり、皮膚温回復過程に室温管理が大きく関与することが判明し、厳密な室温管理が重要であることを示した。皮膚温測定以外に温熱性の痛覚検査が早期振動影響の末梢知覚指標として有用なことを見いだした。これらの成果は、国際手腕系振動会議において発表し、その後のISO会議の重要資料となった。また、これらの室温と生体影響(末梢循環、知覚機能)研究を通して振動曝露時の最適室温環境についても基礎データが得られ、それに基づいて実験室での振動曝露実験により振動の生体影響に関する研究成果を挙げることができた。
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